杉浦英一建築設計事務所
|信濃町の教会
■ 品格と創造性を合わせ持った教会堂
教会建築には「品格」が必要であると考えます.品格とは,文字通り「格調」をそなえるという事で,それは「常識的であること」「社会性があること」「見慣れたもの」「安心感があるもの」に,人々は感じるものではないでしょうか.ただ,教会建築は,同時に「創造性」を持つべきであるとも考えます. すなわち,人の精神世界に深く関わる受け皿である教会建築は,人の心を高揚させ,アクティブにさせ,ひいては現代社会に対し,提案性 を持つ「新しさ」を持つものであることが求められていると思います. 「品格」と「創造性」は本来,二律背反のものかもしれません.しかし,古今東西の名教会堂を見ても,それらは見事にその両面を各時代 において具現化しています.現代のこの時代において,その品格と創造性の両立を目指し,「素材」,「形」,「空間」をデザインして行きたいと考えました.
■ 「響き合い」「調和する」教会堂
ここに来る人々がお互いの関係において,「響き合い」,かつ親近感を持った「調和をはかれる」ような教会堂を提案しました. そのためのひとつのキーワードは「一体感」であると思います.「一体感」を表現する形状を,建築的にデザインしてゆきたいと考えました.また,響き合い,調和するという点においては,「人」の関係のみならず, ハードとしての建築そのものにもこの点はあてはまります.すなわち,材料,空間,音響等,建築をかたちづくるそれぞれの構成要素 においてもこの点を重視し,それらがひとつのハーモニーとなって人に心地よい働きかけが行われることを意図しました.
■ 発信する教会堂
都市に教会堂を建築する一義的な意味として「街の中に祈りのスペースを 創る」ことがあると考えます.このためには,街の中にある意味隔絶され 囲い込まれたスペースをつくる必要があります.ただ,同時に教会には「伝道センター」としての役割,すなわちキリスト 教精神の発信の場としてオープン化してゆく必要があるという側面も見逃 せないと思います.教会は確かに関係者のものであると同時に,決して特殊な場所ではなく, 社会的開放性を持った場であることが求められていると思います.また, 加速度的な近年の情報化もオープン化を促進するひとつの重要な要素とし てとらえられます. そのためには,バリアーフリーであること,また,荘厳さの中にも入りやすい雰囲気を持っていること,また,マルチメディア的情報化に対応した機能を持っている建築としてゆくことが必要であると考えます.
■ 生成りの教会堂
虚飾を排除し,清廉な美しさにあふれた教会堂を提案しました.近年の建築は,一般 的に経済的効率性の追求や,いわゆる「手仕事」を可能とする職能の低下などにより,工業的な製品の組み合わせによるプレファブ的な構法 を採用したり,化学物質を多く含む材料などを使用せざるを得ない場合が多くなっています.そのような時代背景の中でも,石,土壁,木,タイルといった自然素材をできる だけ「あるがままの状態」で使用し,建築をつくって行く方法は残されていると思います.生成りというのは,日本人の誰もが持つ,美的価値観のひとつであると考えます. 自然を愛し,建築に取り入れ続けてきた感性は,現代においても潜在的にわれわ れの中に受け継がれています.いわゆる和風というのではなく,日本人の感性に訴えかけながらも,教会空間としても価値の高い,精神性に満ちあふれた建築をつくりたいと考えました.
■ 入りやすくかつ奥行きのある教会堂
・外部空間から内部空間へ維持的展開性(シークエンス)を保ちながら,人が導かれる精神性の高い空間を創る.
・バリアフリーに留意し,すべての人にオープンな施設を目指す.
■ 活動する場としての教会堂
・集会室,青年会室,教会教師室等を,教会員が「活動する」スペースとしてとらえ,さまざまな活動をフレキシブルに受け止める形態を提供する.
・集会室は,多用途の利用に対応し,遮音式の可動間 仕切りを設け,1〜数室に区切った使用を可能とする
・集会室と東側の駐車場スペースの空間を連続させ, 駐車場を使用していない時は,建具を開放する事で一体的な使用を可能とする.
■ 現教会堂のイメージを継承した教会堂
・建物のモチーフとして,現教会堂のもつデザインを取り入れ,また,部分的に家具等も既存の物の使用を考慮する.
・特に,小礼拝堂は正面アーチ等,現教会堂のモチーフ を取り入れ,かつ現在使用している椅子,説教台等を利用する事を検討する.
■ 人が集い,動く,一体感のある教会堂
・説教を重視した対話型の礼拝堂空間を目指すべく, 椅子席を囲み型配置とする.
・説教を聞き取りやすくするために残響時間は1〜2 秒程度となるようにする.
・暖房は床下に温風を送り,床吹き出し口よりエアー を吹き出すことで,頭寒足熱に留意する.
・パイプオルガンはバルコニー部分に設置し,建築と 一体化したデザインとなるように考慮する.
■ 伝道センターとしての機能を持つ教会堂
・小礼拝堂,求道者会室,図書室等は,「伝道センター」としてとらえ,社会に開かれた場を提供すべく,入口に近い部分に設け,立ち寄りやすくする.
・研究者,学生等,教会員にとどまらない人々に対しても,施設を開かれたものとしてゆく.