CAD図面に思うこと


CAD図面に思うこと

設計図をCADで描き始めて,6~7年が経過した.今や,CAD図面でない設計図を見ることの方がまれになってしまった.コンペで目立つためには,手書き の図面を描く事とすらいわれてしまう現在の状況を数年前に予測することはかなり困難な事であった.私達の事務所も手探りでCADを導入し,当初は,たかがCADと思い,単に手書きのツールが置き換わった程度の認識をしていた.現在,その認識はあまり変わっていない部分もあるし,ある部分でかなり当初の予測と違う面も見えてきている.

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変わらない部分としては,まず第一に手書き図面の達者な人が描くCAD図面は,やはり達者であるのではないかという点である.CADで描いた図面は,納ま りを知らない者が描いても,何となく納まってしまっているように見え,ある意味大変危険であるという声も多々耳にするが,必ずしもそうではないと思う.やはり納まっていない図面は,CADでそれらしくで描いてあっても自信がなさそうに見えるし,実際施工者と打合せをすれば問題が露呈する.
反対に,納まりを知っている人の図面は,当然の事ながらきちっとしているし,何よりも,「美しい」のではないかと思う.
手書き図面を我々の世代が習うにあたり,さしあたって先輩先生方から口うるさく言われたのは,「線の美しさ」「エッジの決まり」「トーンの付け方」等,さしずめ鉛筆デッサンにも共通する「美意識」ではなかったかと思う.CADで描いた線は確かに誰が描いても同じかもしれない.ただ,その線が集まり,絡み合い,ひとつの複合体となったときに,手書きの図面で言われた「美意識」に相通じる表現がそこに表れるように思う.当然の事かもしれないが,CADの図面に も「絵心」は必要であると思う.

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次にCADになって,変わった部分は大きく分けて2つの点があると思う.

まず第一点.図面を製図板上で張り替える必要がなくなった点である.CADの言葉で言えば,新しいファイルを作成せずに,今までのファイルに上書きして図面を進めることができるようになった点である.すなわち,手書きの場合,スケッチ,基本構想,基本設計,実施設計,詳細図,設備図などは,その都度図面が 製図板上で張り替えられ,真っ白な状態から図面が書き起こされる場合が多い.真っ白なトレーシングペーパーを前に,重い気持ちになったのは私一人ではないと思う.それに対し,今私たちの事務所で図面を進める一般的なやり方は,レイヤを新規に追加して前に描いてある情報に上書きを行い,さらに新たな情報を追 加していく方法である.これは我々に限らず,どの設計者もCADを使う限りは無意識に行っている方法かもしれない.多分,自然にCAD使っている限りそのような形になって行くものだと重う.ただ,ここで重要なのは,スケッチ,基本構想図,基本設計図,実施設計図等と図面に名称を付けるのがあまり意味がなくなってきている点ではないかと重う.すなわち,ひとつのファイルは,徐々にその形を変化させながら,完成形に近づいているわけで,たまたま,ある時間の断面においてその図面が出力され,状況に応じて利用されるわけである.これは手書きの時にはなかなか考えづらかった図面の描き方で,CADにおいては図面はグラデーション的に変化し,極端に言えば,図面は無限の密度を持つことが可能になったのではないかと思う.次に第2点.それは図面の用途がオールマイティーになった事である.
図面には大きく分けて次の3つの機能があると考える.

1、施主に対するプレゼンテーション図面

2、施工者に対する指示図面

3、設計者がイメージを膨らますスタディ図面

施工者に対する図面は相手もプロであるから,ある約束に基づいて図面を書き進めればほぼ問題がなく図面としての機能は果たすが,施主に対して,特に住宅の施主に於いては,施工者に対する指示図面を提示するだけでは不足ではないかと思う.それを補うべく,模型を作り,パースを描きということになるわけであるが,図面,例えば,平面図でもかなりイメージを説明するプレゼンテーションは可能ではないか.具体的には,色を付け,情報を視覚的に立体化する事である.また,施主にとって設備図,建築図,の区分けは何の意味も無い物だと思う.これは単に設計者と施工者とのコミュニケーションに都合がいいからであり,施主が知りたいのは,建築と設備の連携にあると言っても過言ではないと思う.
我々の事務所では,総合図をつくることが図面の最終段階であると考えている.住宅ではない,大規模な建築においては,設備,建築を掛け渡すものとして総合図が一般的に施工図の一環として描かれるようになってきている.住宅の場合は,これは設計者の仕事ではないかと思う.建築,設備にとどまらず,造園,仕上,備品なども含め,一体的に表現してゆく図面をつくることは,図面を上記の3つの機能に分けること自体を無意味にするし,CADならではの産物ではないかと考える.


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