ライフパートナーこぶし


ライフパートナーこぶし

東京近郊の住宅地に立地する「知的障害者入所施設」である。元来は土地所有者のための住宅敷地であったが、あらたに知的障害を持つ子供の親が主体となって 社会福祉法人が新設され、国、都、市の補助を受けながら建築に至った。施設は本体施設部分、増築部分(作業棟)、住宅部分の3つにより構成され、段階的に 建設された。既存のこぶしの大木を手がかりに計画され、施設のネーミングの由来となっている。社会から隔絶された立地に建設されがちなこの種の施設が、既 存のコミュニティーである住宅地の中において建設されたプログラムは、障害者施設のあり方の一つのティピカルケースとして、今日性をもっていると言える。

■環境共生型施設
第一種低層住宅専用地域における、近隣との共存型施設とするために、極力元からある自然環境を保全し、かつ、分散的な配置計画とすることで、住宅的なスケールで全体を形づくった。また、アースカラーを用い、近隣環境に溶け込むような建築を心掛けた。

■こぶしの大木
敷地内の既存樹木である、2本の「こぶしの大木」に経緯を表して、これを保存しながら活用する事とし、常にこぶしの木を身近に感じられるような配置計画とした。四季折々に変化するこぶしの木の表情は、入所者に「自然の力と美しさ」を常に語りかけている。

■入所者のための「いえ空間」
利用者にとって、「施設」ではなく、「いえ」空間である事を意識し、住宅的なスケール、素材感を用いて建築全体を構成した。小さな個室とそれに連続する居間空間を一つのユニットとして生活単位を構成し、入所者同士のコミュニケーション形成に留意した。

■生成(きなり)の空間
珪藻土の壁・天井、無垢の杉の床板・木製デッキ、連続する無垢の米松の格子等、自然素材を極力使用し、健康に留意した「生成の空間」を作り出すことを意図した。また、これら自然素材は、このような施設にありがちな生活臭をなくすことに機能している。

■縦格子=武蔵野の自然
この施設のデザインモチーフは縦格子である。これは元来この場所にあった武蔵野の自然樹林をモチーフとしており、「林」の持つ清廉さや秩序感を表現している。また、木製縦格子は入所者の「足がかり」になりにくい形状としての意味合いを合わせ持っている。

■施設と住宅の一体的整備
この施設は、本体施設、増築部分(作業棟)、及びもともとの土地所有者の住宅の3つの施設により成り立っている。それぞれの建築が、互いのオープンスペースを尊重し合い、なおかつ形態の連続性を持ちながら、全体的に一つの秩序を形成するように意図した


現代日本の建築家1優秀建築選2005 JIA Architect of the Year
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