東大泉の家


東大泉の家

敷地は練馬区の住宅地に位置する。ほぼ正方形の7m四方の狭小敷地に家族3人の住まいをつくる計画である。施主の要望はRC造で建築可能な最大ボリュームをつくり、地下も有効に利用したいとの事。また、設備機器や建具金物など細部の仕様に至るまでこだわりが強く、質の良いものを希望された。しかし現実的には、限られた予算と面積に対して、施主の思いが大きく膨らみ、折り合いを付けてゆく事は、なかなか困難な作業となった。
様々な案が浮かんでは消えて行く中で、これは通常の方法論で設計してゆく事が難しいのではないかと考えるに至った。すなわち、ある定まった機能を持つスペースを動線で繋いでゆくのではなく、動線そのものを生活スペースとして活用してゆく事が重要なのではないかという事である。

○ナナメの階段
動線の中心となる階段を、家の中心にナナメに配置し、それに連なるように様々なレベルを持つスペースを連続させた。静的な正方形プランの中に、ナナメの要素が配置される事で、動きのあるシークエンスをつくり出す事ができた。また、ナナメに切り取られた空間は、見る方向によっては逆パースの効果により実際以上の広さを感じさせてくれる。また、階段は単なる動線でなく、ある時はベンチのように利用され、動きのある生活空間の一部としても機能している。

○矩形の箱
平面的に考えた場合、正方形の敷地の中に正方形のプランを落とし込む事はきわめて自然である。ただ、今回の場合は、立体的にも道路斜線や北側斜線の影響を感じさせないような矩形の箱の形態をつくる事がテーマとなった。結果、建物は半地下に埋め込まれ、1600ミリというやや中途半端にも思えるような天井高を持つロフトスペースが生まれたが、かえって新鮮な空間体験をできる場となったように思う。

○メスルーム
この家の中心は「メスルーム」と名付けられた家族が集うスペースである。メスルームとは実は施主のネーミングであるが、船の中等の「会食室」を意味するとの事。これからこのちいさな家で住み続けるという「航海」は始まって間もないが、設計者として行く末を注意深く見守ってゆきたい。


新建築住宅特集2012年5月号
↑
つぶやく