多世帯住宅の秘訣



Q1:生活時間のズレによるストレスを減らすには
生活時間のずれで最も気になるのは、「音」の問題ではないかと思います。
特に、上下階に分かれて親、子世帯が住む場合、多くの場合子世帯が上階になるでしょうから、子供の足音や、深夜の生活音などが下階に響くことが多々あります。
コンクリート造であればあまり音の問題はないでしょうが、木造の場合、床と天井に防音工事を行う、あるいは親世帯の寝室の上に、子世帯の居間を配置しない等の配慮が必要だと思います。また、トイレ、キッチンなどからの排水の音も、意外と気になるものです。配管の選定、配管ルートなどもよく検討する必要があります。

Q2:お互いに気遣いを減らすための間取りの工夫
多世帯で暮らす場合のそれぞれの人間関係が、間取りを考える上でまず重要だと思います。言い換えれば、どの程度「親しいのか」ということにより、プランニングが変わってくると言うことです。
一緒に暮らすのが夫の親なのか、妻の親なのか、あるいは姉弟の家族なのか等で、プランニングは違ってきます。
親しい関係であれば、共用部分を多くして、それをお互いが使い合うという事も現実的だと思いますが、必ずしも層でない場合、あるいは微妙な気遣いが必要な場合は、あまり共用部分があっても、お互い気持ちよく使い会えないのではないでしょうか。
親しい間柄で多世帯住宅をつくるといっても、そこにはさまざまな人間関係があるはずですし、逆に親しいからこそ、踏み込んでは行けない一線もあるということではないでしょうか。

Q3:世帯間に適度な距離感をもたせるには
距離感を得るためには、まず第一に玄関の距離が最も影響力が強い部分ではないでしょうか。やはり表札のついた家の「顔」ですから、それが共用であったり、あるいは隣り合っていたりしては、お互いの距離感は感じにくいと思います。
次に、距離感を感じるのは「防音」や「視線」、言い換えれば「気配」をどれくらい感じるかと言うことです。
互いの気配をどれくらい感じる設計にするかということが、多世帯住宅の住みやすさに直結してくると思います。何となく気配を感じる、あるいは、寝ているか起きているかがなんとなくわかる、くらいの距離感が適当なのではないでしょうか。


Q4:大家族での生活を楽しみたい場合の間取りは
近年の多世帯住宅は、なるべく「距離感を離す」ことがその主題となっているように感じます。ただ、昔の日本の家庭のように、大家族で住むというのも逆に好まれることもあるのかもしれません。
例えば、小さな子供にとって、親以外の大人がいる事は、社会の縮図を知ることになるでしょうし、現に共働きの親であれば、祖父母が孫の面倒を見るということも、必要な事です。
また、高齢者にとっても、独居の寂しさや、万が一の事態を考えれば、近くに肉親がいることのメリットは大きいはずですし、孫、場合によっては曾孫と触れ合うことは、大きな楽しみだと思います。
ただ、昔の日本の家のように、嫁が家事を取り仕切り、お手伝いさんがいるというような時代ではありません。主婦であっても仕事を持ったり、高齢者といっても仕事をしている人も多いでしょうし、また、地域とのコミュニティーなどに参加するなど、多様な生活形態となってきています。
それらすべての多様な人が、フスマ一枚でプライバシーを守ろうとするような昔ながらの住宅に住むことは、いうまでもなく無理があると思います。
やはり、それぞれが「自分の時間」を持てる空間がありながら、かつ他の世帯あるいは世代と交流できる空間があるという2面性がなくては、成り立たないのではないでしょうか。

Q5:世帯ごとに異なる要望が多い場合は
世帯毎の要望が違うのは、ある意味無理のないことだと思います。世代も違い、価値観も違う人々が一緒に住もうというのですから、違って当然です。
多世帯住宅の設計は通常の住宅を設計するのに比べて、打合せにかける時間が多くなりがちなのも、無理からぬ事です。
ただし、家をつくることは、誰しもそれに対して夢を持っている訳ですから、やはり家をつくる限り、その夢を実現しなくては、家をつくる意味そのものが無くなってしまいます。
基本的に要望はすべて表現するべきでしょうし、設計者はそれをすべて実現することに最大限の努力をするべきだと考えます。
矛盾する要望も出てくるでしょうが、それを考えに考えて、家族同士が理解し合い、場合によっては譲り合うことで、プランニングを実現してゆくことが重要だと思います。


Q6:共有スペースはどの程度を考えたらいいか
共有スペースは、まず本当に必要なのかという基本的な事を考える必要があると思います。
生活の重要な機能スペース(水回りなど)が共有になるのは、場合によると大変な我慢を強いられる可能性があります。それが心配であればやはり完全分離にするなど、一定の距離感を取るプランにする必要があるでしょう。
それに対して、例えば中庭をとってそれを世帯で共用するなどという方が、これはそんなに我慢をするような事にはならなそうです。これは、水回りに比べて、中庭はあまり機能性という点での重要度がないからだと考えられます。
機能が切実であればあるほど、共用にすることはリスクが出てくることを充分認識する必要があります。
現在設計している多世帯住宅で、「音楽を楽しむ部屋」を共用スペースとしているものがあります。どの世帯の人も音楽が好きで、それぞれがそのスペースを持っても、中途半端なものになってしまうでしょうか、全世帯で持ち合えば、それなりの充実したスペースを持つことが可能になります。こんな例は、余裕があれば関係者全員の同意がされやすいものだと思います。

Q7:多世帯で永く快適に暮らすための間取りの工夫
そもそも、どうして多世帯住宅が近年増加しているかと言えば、大きな原因の一つに、住宅を建てる土地の取得が容易で無いことが上げられると思います。
これは、地価が都市部においては高価で、例えば東京23区内の一部の住宅地であれば、新築の家を建てるためには、土地代金が建築代金の2倍以上かかる等という、異常な状態が解消されない限りこの傾向はなくならないでしょう。
多世帯が住まうといった時に、その理想は、各世帯がそれぞれの土地をスープの冷めない距離に買い求め、自由に家を建てることではないでしょうか。
多世帯住宅を考えるとき、その理念はそれに近い形を、一つの敷地の中に具現化するものだと思います。
まず、第一はそれぞれの世帯が「家」として独立していること。
次にその上で、世帯間の共有スペースがあって、それぞれの気配が感じられるつくりとなっていること。
この2点を考えることが、最も多世帯住宅をつくる上で重要だと思います。


マイホームプラス2010年
↑
つぶやく